2月14日 | 刹那的雑記

2月14日

2月14日。それはバレンタインデー。
世の中のカップルが、女性からチョコレートをもらい、それは愛の証だとされてきたイベント。今では義理チョコなんてふざけた慣習があるけど、それでも僕は彼女からの愛の証を待っていた。くれないはずが無いと。

僕には4年付きあってる彼女がいる。
最初はべたべたしたいわゆるバカップルのような関係だったけど、今ではすっかり夫婦のようになってしまった。
恐らく、恋とかそういう感情ではなく、一緒にいて楽だからなんて情みたいなので繋がってるんだろうなって僕も気づいてた。それでも彼女は僕を愛してるに違いない。いや、もしかしたら彼女も同じ気持ちかな。執着心だけがあるのかな。

だから、14日の前の日、2月13日に彼女が他の男と話しているのを見て僕は、怒った。別に、愛しているからとかそんなのではなく、執着心だ。
これは俺の物だぞ。お前なんかにやるかという執着心で、僕は彼女に話した。

「さっきの男誰?」
「あ・・うん、ちょっと相談事してる人。でも気にすることなんてないよ!何もないから」
「相談?何を?」
「それは、今はまだいえないけど・・・」

僕は、この台詞に鼓動が早くなったのを感じた。なんだろう。僕の物が他の奴に盗られる?冗談じゃない、ここまでこいつと一緒にいたのは俺だ。
俺以上にこいつを知ってる奴なんていない。誰であろうとやるものか。

そう、愛じゃない。男の意地。執着だ。
俺以外の奴なんて愛する訳がないと安心していた。
けれど実際にそんな事態になってしまった。

何故だ。こんなに尽くしてきた。一緒に色んな想い出もある。
なのに、何故他の男なんだ。俺が一番こいつを理解してるのに。

「ふざけるな!そんな男にいくくらいなら死んでやるぞ」
僕は言う。
「違うよ!死ぬとかいわないでよ!違うの!!」
「何が違うんだよ!どんな奴だ!年は?どこで知り合った!」

彼女は泣き出した。泣きたいのはこっちだ。訳がわからない。


ふと彼女の指を見る。ばんそうこうで指先が巻かれている。左手の薬指に。

聞いたことがある。指輪のかわりにばんそうこうで左手の薬指に巻き付けて愛の証しにするというのが、若い女の子の間で流行っていると。

「お前・・なんだその薬指。その男に巻かれたのかよ!ふざけるな!」
僕はキレた。
分からない。いつでも別れても構わないと想っていたのに、何故こんなに怒るのか。やはり、失いたくないという気持ちからなのだろうか。

彼女は泣いたまま座り込んでいた。

「出ていけ・・・」

「え?」

「今すぐこの部屋からでていけっていってんだよ!!」
そう怒鳴ると、彼女は悲しそうに僕を見て、少しうつむいた後に玄関まで行った。

「ねえ・・本当に違うんだよ?、私はあなたを。。。」

「うるさいっていってんだよ、さっさとでてけよ!」

彼女はまた黙って立ちつくした後に、静かに出ていった。
ドアが閉まる音が、空しく部屋に響いた。

僕は、泣いた。なんの涙だろう。彼女を怒ったから?
違う、彼女に裏切られたからだ。こんなに愛したのに。
こんなに尽くしてきたはずなのに。

僕はその後、眠った。隣にあった温もりを思い出しながら。
そして、今はきっと他の男といるんだろうと怒りを感じながら。




次の日、僕は朝玄関を出て学校にいこうとした。
その時、ふと足下に何かが当たった。
なんだろう。

良く見ると、小さく包装された箱だった。ピンクのリボンがついている。
中を開けてみる。
そこにはぶきっちょなクッキーが入っていた。

僕は愕然とした。

僕はチョコが苦手で、去年まではバレンタインデーはチョコをもらっていたけど、来年は手作りのクッキーがいいなと言った事を思い出した。

これは・・・

これは手作りのクッキーだった・・・。

そうだ。彼女はその男にきっと、男が好むクッキーの味を一生懸命聞いていただけだったんだ。そして、あの薬指のばんそうこうは、料理が下手な彼女が一生懸命作っていたときに出来た傷だったんだ。

なんてことだ・・・。僕は何も考えちゃいなかった。
彼女の愛なんて考えもしなかった。ただ、疑うだけだった。
彼女はきっと、一生懸命作ったんだろう。ぶきっちょなハート形のクッキーが箱にぎゅうぎゅうに詰まっていた。そう、彼女の愛が。

きっと僕が喜ぶ顔を想像しながら一生懸命作ったに違いない。

僕は・・・僕は・・・長く一緒にいたことで、彼女をきちんと見てあげることを忘れていた。見落とした。彼女の僕に対する愛を。あの笑顔を。
いつだって彼女は僕に笑顔を見せてくれたじゃないか。
尽くしてくれたのは彼女のほうじゃないか。・

僕は、何もわかっちゃいなかったんだ。

その日。2月14日。僕はハート形のクッキーを一口かじって泣いた。





その後、彼女と会うことはもう無かった。














という2月14日が近いんで、創作話を作ってみました。
人は長く一緒にいると、その人の本当の姿を忘れます。
愛の形も忘れてしまいます。
2月14日。愛を手渡し、受け取る日。
もう一度、あなたのそばにいる人。いたひとを想ってみてはどうでしょうか。